第51回岩手県小児科医会談話会・講演会

【 更新日:2013/03/27 】

小笠原 孝祐
小児科医に役立つ眼科の知識

小児科領域に関連する眼科疾患を扱う学問は、小児眼科学(Pediatric Ophthalmology)として独立した一つの分野を形成している。小児眼科学は大きく小児の眼病変(狭義の小児眼科)と視機能に関係する弱視・斜視の二つの分野に分けられる。また、小児糖尿病患者の合併症管理やステロイド治療による眼科的副作用チェックも眼科の役割となる。
 小児の眼病変としては、未熟児網膜症、先天性白内障、先天性緑内障、眼瞼内反症、鼻涙管閉塞症、細菌感染症、ウイルス感染症、網膜芽細胞腫に代表される眼腫瘍、アレルギー性結膜炎、春季カタル、アトピー性眼病変等のアレルギー性疾患、多形性滲出性紅斑、川崎病などの膠原病が挙げられる。これらのうち主な疾患ならびに弱視・斜視について概説を行った。本抄録では紙面の都合上、アデノウイルスによる眼病変と幼時期における安易な眼帯が弱視を惹起する危険性について記述する。
1.アデノウイルスによる眼病変
 ウイルス性眼感染症の代表的なものは、アデノウイルスによる感染症である。それには2つある。1つは流行性角結膜炎(EKC)であり、アデノウイルスD群8型、19型及び37型による角結膜炎、頭痛、リンパ節腫脹等を伴うものであり、もう1つは咽頭結膜熱(プール熱)であり、アデノウイルスB群3型及び7型、E群4型により発症し、急性の結膜炎、発熱、咽頭炎、頸部、耳介前部リンパ節の腫脹を生じるものである。アデノウイルス眼感染症になった場合には、眼科医に指示された期間登園・登校を控えるとともに、家族内の接触感染の防止として、イソジンによる手洗いを励行することはもちろんであるが、合併症の防止のために抗生剤とステロイド剤の点眼が併用される。治療上、気をつけなければならないことが2つある。1つは、ステロイド点眼を漫然と使用することによるヘルペス性角膜炎の合併であり、もう1つは治療が奏効しなかった場合に、角膜上皮下混濁を残すことである。角膜上皮下混濁は恒久的な視力障害を生じさせることから、特に気をつけなければならない合併症であり、早期の適切な治療と経過観察が重要である。
2.弱視について
 弱視とは、矯正視力が医学的には0.7以下、社会的には0.3以下の場合をいい、屈折性弱視、不同視弱視、斜視弱視、視性刺激遮断弱視の4つに分類される。屈折性弱視とは、近視、遠視や乱視が強いために視力が出ない場合をいい、不同視弱視とは、主に遠視の場合にその度数に左右差があり、遠視の強い眼が焦点を十分に合わせることができないため、視力の発達が損なわれ弱視になるものである。斜視弱視というのは、眼の位置が内方、外方、上方、下方のいずれかにずれる眼位異常が生じることにより起こる視力低下をいう。視性刺激遮断弱視とは、視力の発達に重要な時期に安易な片眼帯や白内障、角膜混濁などの病気により光の刺激が網膜に正常に到達しないためにおこる視力障害である。子供の視力の発育は、従来考えられていたよりも早く、生後3ヶ月から3歳までに急激に発達し、基本的な両眼視機能の獲得がなされるため、この時期は視覚の高感受性期(臨界期)と言われる。その時期に眼瞼内反症の手術などで片眼を遮蔽することにより、視性刺激遮断弱視が惹起されることを1973年名古屋大学の粟屋 忍先生(現名誉教授)が初めて報告して以来、非常に重要な注意点として小児眼科学の教科書に記載されている。1歳から3歳までの間は片眼の眼帯をすることについては十分な注意が必要であることを強調したい。


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