第17回全国介護老人保健施設 熊本大会

【 更新日:2013/02/22 】

佐藤美知・伊藤明香・高橋公樹・熊谷明子・宇佐美綾子(北上きぼう苑)
小笠原 孝祐・渡部 直美・高野 美代(小笠原眼科クリニック)
当施設における作業活動参加者の視力実態調査

はじめに
 当施設では、施設生活高齢者の生活意欲の維持を目的として作業活動を行っている。しかし、色々な障害によりその活動を行うことが困難になることが多い。その原因の一つとして、視力の問題が挙げられる。しかし、施設入所者に視力検査を行う機会は少なく、また、介護認定調査の視力調査項目で問題がなければ見過ごされがちである。そこで、今回当施設の入所者のうち、手工芸を主とした作業活動に参加している集団を対象に介護認定調査の視力項目の判定結果調査と視力測定を行ったのでここに報告する。

対象者
 当施設入所者のうち、手工芸を主とした作業活動に定期的に参加されている
 32名(男性2名、女性30名 平均年齢87.7±11才 平均要介護度2.4)

調査方法 
 1.介護認定調査の視力項目の判定結果を調査
 2.普段生活している状況(眼鏡常用者は眼鏡視力を測定)での左右遠見視力を測定

結 果
 1.介護認定調査の視力項目の判定結果
 2.近見視力および遠見視力測定
 1)介護認定調査の視力項目では普通と判断された人は31/32人であった。
 2)新聞・雑誌を読むために必要とされている近見視力0.4未満である人は
  28/32人(87.5%)である。
 3)31/32人(96.9%)は、両眼共に0.4以下であった。
 4)対象者のうち、最低近見視力は(右0 左0.15)であり、最高は
  (右0.6 左0.02)であった。
 5)遠見視力では、一般的な弱視の定義(両眼共に0.3以下)に当てはめて
  みると、18/32人(56.3%)があてはまった。

考 察
 介護認定調査の視力項目結果を見ると、対象集団では介護上では、視力が問題と判断された人はほとんどいないにも関わらず、87.5%の人は新聞・雑誌を読むことが困難と予想され、96.9%の人は9ポイント以下の活字(一般書籍レベル)の判別が困難である可能性が示唆された。これは、当施設で行っている活動内容のうち貼り合わせる、紙を折る等の精密さを要求される作品作りでは作業の困難さが予想され、他人の援助を必要とする結果と考えられる。また、活字による情報伝達は全員に周知するための手段としては、視力の面からみても有効ではないと考えられる。遠見視力を見ると、弱視とされる人が56.3%に達し、作業活動だけでなく、施設生活においてもロービジョンケアの概念を取り入れながらのケアの必要性が示唆された。

まとめ
 元来、私達の生活の中には本を読む、新聞を見る、裁縫をするなど、趣味ではなくても生活意欲を維持する活動が含まれている。施設生活高齢者は、この活動がいろいろな側面により制限される状況にあるが、今回の調査では、介護認定調査で視力についてほとんどの人が普通と判断されており、作業活動に取り組んでいるにも関わらず、新聞を読む等には支障があることがわかった。今後の課題としては、情報の伝達に文字の読解を利用する場合は文字の大きさに配慮した上で、図表、絵を利用するなどをし、同時に声による聴覚への働きかけや、手で触り確かめる触角の利用など、視覚に大きく依存しない情報伝達手段の選択を考えていかなければならないことが挙げられる。また、視力の低下により、生活意欲の低下や興味の喪失が起きやすいとされているが、視力が低下していても楽しむことのできる作業活動の提供や、日時が確認できる時計やカレンダーの大きさ、設置場所への配慮が重要と考えられる。また、今回、視力がかなり低下している状態でも、作業活動に定期的に参加している人もいることから、生活の楽しみを作業活動に見出している結果ともとれ、ますます、視力低下であっても参加できる作業活動の重要性を感じた。今後とも、視力の実態に配慮した作業活動と施設生活の援助を考えることにより、施設生活高齢者の生活意欲の維持に努めたい。


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