第2回岩手甲状腺眼症研究会抄録

【 更新日:2011/11/12 】

講演1

「眼窩領域のMRI診断をめぐる話題」 : 甲状腺眼症を中心に

岩手県立中央病院副院長 佐々木 康夫 先生

眼窩内は諸種の軟部組織が複雑な構造を示し、また眼窩内あるいは全身の病態によって様々な変化を示す。MRIはこれらの構造の組織コントラストを明瞭に表現しかつ多方向撮像が自在に得られるため、眼窩以内病変を表現する手段としての役割が期待される。
眼窩領域のMRIに用いられる撮像法はT1WI、T2WIと脂肪抑制画像が必須である。腫瘍性変化は炎症の程度を判断する場合にはGd造影剤の投与を行う。最近では拡散強調画像が腫瘍の性状判断に有用性が高いと言った報告もある。撮像方向は軸位断と冠状断像が基本であり、時に矢状断像を加える。PETやSPECTとの複合画像、動画による機能判定も行われて来ている。
甲状腺眼症(TAO)は従前よりCTによって外眼筋の肥厚の観察が行われて来た。甲状腺の肥厚、筋肉と眼球との関連についてはCTでも一定の病態観察が可能である。MRIでは脂肪成分抑制したT2強調画像が得られるため、脂肪の影響のない画像の観察が可能であり、TAOにおける急性の浮腫性病変と陳旧性の線維化病変の鑑別を可能とする。即ち浮腫性病変においてはT2時間が延長し、高信号病変として描出され、線維化の進行した病変の信号上昇は少ない。このことは、放射線療法の適応を判断する際に有用な情報が得られる。
さらにいくつかの撮像法を駆使することで、そのほかの眼窩内病変(炎症性偽腫瘍、蜂窩織炎、視神経炎、原発あるいは腫瘍など)との鑑別を容易にする。なお、MRIの撮像法の基本ならびに当院の甲状腺眼症における放射線治療についても当院の状況を併せて報告する予定である。

講演2

甲状腺眼症のはなし

愛知医科大学眼科学講座准教授  柿崎 裕彦 先生

甲状腺眼症は、眼部をターゲットとした自己免疫疾患で、甲状腺機能異常に関連して出現します。眼瞼や眼窩の症状を含めて、眼部に出現するあらゆる病的な状態を含みます。甲状腺眼症は、眼瞼が過度に開いてしまった「眼瞼後退」や、下を向いたときに上眼瞼の動きが眼球の動きより遅れる「眼瞼おくれ」などの眼瞼症状があって、なおかつ、CTやMRIで、特徴的な外眼筋の肥厚が認められた場合に診断されます。

甲状腺眼症の症状は、甲状腺機能異常の影響を受ける原発症状(眼球突出、眼瞼症状、涙腺の肥大)、また、原発症状が原因になって生じる、その他の続発症状に分かれます。続発症状には、ドライアイ、眼精疲労、結膜充血、睫毛乱生、内反症、複視(眼球運動障害)、角膜障害、視神経障害などが含まれます。

甲状腺眼症の診察は、炎症を正確に評価することに尽きます。甲状腺眼症は、炎症反応の旺盛な「活動期」(2~3ヶ月)と、炎症症状が消退しつつある「不活動期」(数年)、炎症が完全に消退し、合併症が前面に出た「回復期」、の3期に分類されます。不活動期も含め、炎症の活動性があるうちに如何に効果的に消炎治療ができるかによって、その後に起こってくる合併症の重症度が変わってくるので、炎症の評価は非常に重要です。不活動期であっても、消炎治療をすることによって、それ以上の合併症の進展を防ぐことができます。

日常生活に支障をきたすような合併症を残した場合には、手術治療が必要となりますが、手術治療は、通常、炎症が消退した回復期に行います。原則的には、ステロイド治療や放射線治療による消炎治療後、6ヶ月間、症状が安定していれば、手術可能と判断します。炎症が残っている状態で手術を行うと、炎症が再び活発化してきたり、残った炎症によって術後の瘢痕組織の形成が旺盛に行われ、手術効果が思うように上がらないことがあるためです。

本講演では、甲状腺眼症の臨床医学的性質、診断、治療について包括的に解説します。

関連発表

甲状腺眼症による急速な視力低下に対して鼻内視鏡下眼窩減圧術を施行した一例  

旭川医科大学耳鼻咽喉科講師   片山 昭公 先生

急速な視力低下を認めた甲状腺眼症に対し鼻内視鏡下眼窩減圧術を施行し、良好な視力回復が得られたので報告する。症例は53歳女性、2009年4月に当院内科にてバセドウ病と診断を受け、MMI内服後間もなく甲状腺機能は正常化したが、TRAbは高値であった。2010年8月より出現した両側眼瞼浮腫と複視に対しPSL内服していたが、2011年1月より急速な右視力低下が出現し、ステロイドパルス療法を施行するも改善無く、手術目的で当科紹介となった。術前CT/MRにて外眼筋の肥大による視神経の圧迫が認められ、矯正視力は右0.1/左1.0まで低下していた。3月2日に鼻内視鏡下眼窩減圧術を施行した。手術では副鼻腔の郭清後に眼窩下壁と内側壁を除去し、骨膜を切開して眼窩内容物を副鼻腔へ開放、減圧した。術後、矯正視力は右0.9/左1.2と良好な改善を認めた。甲状腺眼症に対する多様な手術法の報告がなされているが、鼻内視鏡下眼窩減圧術は、患者侵襲や合併症のリスクが低い事に加えて眼窩周囲骨を広範囲に解放可能であり、優れた治療選択肢である。

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