第6回岩手甲状腺眼症研究会抄録

【 更新日:2015/10/19 】

特別講演1

甲状腺眼症に対するステロイド治療

野口病院統括内科部長  村上 司 先生

甲状腺眼症は患者さんのQOLに大きく影響することがあり、また時に治療に難渋するバセドウ病の随伴症状である。ステロイド全身投与を要する眼症の頻度はバセドウ病の5 %以下である。甲状腺眼症の病期は活動性の高い時期と、活動性炎症が鎮静化して眼球運動障害や眼球突出が固定した時期に別けられる。活動期にはステロイド全身投与や球後照射などの免疫抑制療法が適応になる。
甲状腺眼症の症例ではまず活動性の有無を評価する。Clinical activity score (CAS)は簡便な活動性指標であるが、CASが低値でも眼窩MRIで活動性を認める症例をしばしば経験する。そこで、検査可能な症例では眼窩MRI で評価している。ステロイド投与開始前に消化性潰瘍、B型肝炎、糖尿病、結核などの有無を確認する。
野口病院では活動性眼症に対して、基本的にステロイドパルス治療と球後照射の併用を行っている。3日連続のmethylprednisolone 500mg点滴投与を1コースとして2~4コース程度を投与する。引き続き経口でprednisolone 40mgから漸減投与し6月ほど投与した後で中止する。パルスの回数と経口prednisoloneの投与期間は治療前の活動性の程度、治療後のMRI所見などから判断している。ステロイド投与中は種々の副作用に対して十分に備え、並行して甲状腺機能をコントロールし、喫煙者では禁煙を指導する。
このような治療によって、ほとんどの症例で外眼筋の活動性炎症を制御できる。甲状腺眼症の最も重篤な症状である視神経症に対してもステロイドパルス治療は有効である。外眼筋腫大が著しい症例では眼球突出度にも改善がみられるが、眼球運動障害には改善が乏しいことが多い。一旦治まった活動性炎症が再燃する症例が少なくないことが問題である。
講演では眼症の診療におけるTSAbの意義や、バセドウ病に対する放射性ヨウ素内用療法と眼症との関係についても考察したい。

特別講演2

甲状腺眼症:難しかった治療や新しく開発した手術テクニックについて

愛知医科大学眼科学講座教授  柿崎 裕彦 先生

甲状腺眼症の治療は、「消炎」と、「合併症に対する手術」がその柱となります。

消炎治療では、ステロイドパルス療法を柱として、適宜、放射線治療とステロイド内服治療を組み合わせます。我々は10㎎/kg体重でソルメドロールの点滴を行っています。原則的に放射線治療は35歳以上が適応であり、また、ステロイド内服はそれ単独では行いません。いずれの場合にも、禁煙を行いつつ治療しなければ効果的ではありません。視神経症の治療は、まずはステロイドパルスを用いた消炎治療から開始し、効果が十分でなければ、間髪入れずに眼窩減圧を行います。

私が眼の形成外科を志し、国内で一応の研修を終えて、愛知医大で眼形成外科外来を開いたのは、平成17年のことでした。当時の眼窩減圧術は、内下壁中心で行われておりましたが、私は術後の眼球運動障害が少ない外側深部壁減圧を導入しました。確かに、日常生活に支障を来すような眼球運動障害は少なくなりましたが、まれに、癒着による眼球運動障害や下斜筋麻痺を生じました。また、経時的に改善するとはいえ、側頭部の感覚低下は必発であり、結膜浮腫を生じる症例も見られました。これらを改善する試みを続けています。

眼瞼後退に関しては、上眼瞼延長術では、いまだに術後の眼瞼高を推測する適切な予見因子が発見されておらず、また、耳側が吊り上がった結果となることも多くみられます。前者に関しては、通常のエピネフリン加の麻酔を使うと、術後に2mm程度の追加の延長がみられることがわかり、また、下がらない症例に関しては、外眥の眼輪筋腱を切断すると効果的に下げることができるようになりました。下眼瞼に関しては、重力の影響を排除する目的で延長材を入れることが必須です。しかし、これは下眼瞼の牽引組織を延長するというコンセプトではなく、それを無力化し、ロックウッド靭帯の上にのせるという感じです。従って、延長材の縦幅はロックウッド靭帯から下瞼板下縁までの正常人での距離である8㎜程度で十分ということになります。

眼球運動障害に関しては、回旋斜視の修正が重要です。下直筋が瘢痕拘縮を起こすと眼球は外旋するため、下直筋の後転と同時に鼻側移動を追加します。一般的には1筋腹7度の回旋の矯正が可能とされていますが、我々のデータでは10度ほどの矯正になっています。その他、拘縮の強い場合、切腱が必要なこともあります。内壁減圧後やバランス減圧後の眼球運動障害の修正は比較的容易ですが、外壁減圧後の癒着による場合や筋無力症を合併している場合はその修正に困難を極めます。

以上のようなバセドウ眼症全般の解説に加えて、治療に難渋した症例に関しても報告する予定です。

 


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