第4回岩手甲状腺眼症研究会抄録

【 更新日:2013/09/30 】

話題提供

甲状腺連携手帳について

小笠原眼科クリニック 小笠原 孝祐 

甲状腺眼症の診断と治療の向上を目指し、眼科医と内科、外科、放射線科の医師間の情報交換と研鑽を目的に岩手甲状腺眼症研究会が発足したわけですが、その連携をより円滑にするため「甲状腺連携手帳」を作成し、第1版を試作致しましたので、その内容について紹介させて頂きます。また、当日参加される皆様には実際に手帳をお配り致します。
甲状腺連携手帳の作成にあたっては、岩手甲状腺眼症研究会の世話人の先生方とともに、久留米大学内分泌内科教授 廣松 雄治 先生の御意見を参考に致しました。手帳の有効活用を第一に、初診データ、内科検査ならびに眼科検査のデータを別々に記載出来るようにし、MRI検査では水平断、冠状断、矢状断、STIRのチェックをして頂くとともに外眼筋の肥大、異常信号の有無、視神経障害、視神経の異常信号の有無の項目を設けました。また、留意点としては、多忙な日常診療の時間内に記載出来るということを念頭に置きました。眼科検査の項目については、アメリカ甲状腺学会のNOSPECS分類をもとにそれを改訂した内容と致しました。皆様方に御高覧頂き、御意見、御要望をお聞かせ頂き、さらにより良い手帳に改訂出来ればと考えております。

特別講演1

甲状腺眼症に対するステロイド治療について

オリンピア眼科病院院長  井上 吐州 先生

甲状腺眼症では、球後の炎症により眼瞼異常、眼球突出、複視、視力障害など様々な所見がみられ、治療は球後炎症に対する消炎が主体となります。活動期の症例に対してはステロイド治療や放射線治療が適応となり、非活動期の症例には外科的治療を行います。甲状腺眼症に対するステロイド治療は、全身投与と局所投与があり、全身投与ではステロイドパルス療法、ステロイド大量漸減療法、内服治療が行われ、局所投与として球後注射、テノン嚢下注射、皮下注射などを行います。

European Group on Graves' Orbitopathy (EUGOGO)では、中等症以上の眼症に対してステロイド全身投与を、軽症例には経過観察を推奨しています。甲状腺眼症は、日本では欧米人と比較して軽症例が多くみられますが、軽症でも外見上の訴えは強いため、日本甲状腺学会の治療指針では軽症例に対する局所治療も勧められています。

当院では、ステロイドの投与方法を症例毎に選択しています。治療方針を決定する際、MRIを用いた画像診断により球後病変の評価を行います。具体的には、その炎症が局所のみか広範囲に及んでいるか、外眼筋肥大の程度やその数はどうか、などの確認を行います。その際、甲状腺機能障害の治療状況や甲状腺自己抗体の値も参考となります。

今回の講演では、現在当院で行っている治療選択および治療の有効性を中心に症例を提示しながら報告させていただきます。また、再発症例や難治例についても検討します。

特別講演2

甲状腺眼症の治療

愛知医科大学眼科学講座教授  柿崎 裕彦 先生

甲状腺眼症の治療は、「消炎」と、「合併症に対する手術」がその柱となる。

消炎治療では、ステロイドパルス療法を柱として、適宜、放射線治療とステロイド内服治療を組み合わせる。我々は10㎎/kg体重でソルメドロールの点滴を行っている。原則的に放射線治療は35歳以上が適応であり、また、ステロイド内服はそれ単独では行わない。いずれの場合にも、禁煙を行いつつ治療しなければ効果的ではない。視神経症の治療は、まずはステロイドパルスを用いた消炎治療から開始し、効果が十分でなければ、間髪入れずに眼窩減圧を行う。

手術は通常、炎症の消退した不活動期に行うが、原則的に眼窩減圧術、斜視手術、眼瞼手術の順に行う。眼窩減圧術の合併症に眼球運動障害や眼瞼症状が含まれ、また、斜視手術の後に眼瞼症状を生じることがあるためである。しかし、眼窩減圧術を行わずに斜視手術を行ったり、眼窩減圧術、斜視手術をとばして眼瞼手術だけを行うことも可能である。

眼窩減圧術は効果的に眼球を凹ませることができる一方、眼球運動障害を術後に生じることがある。外側深部壁減圧、内側壁減圧、下壁減圧の順に行うことが推奨されている。特に外側深部壁減圧と内側壁減圧を組み合わせたバランス減圧は脂肪除去を併用することで8mm程度の減圧が可能となる。Swinging Eyelidアプローチが好んで用いられてきたが、術後に結膜浮腫が遷延する症例があるため、我々は単純なBerkeの切開からアプローチしている。

斜視手術は、正面視で複視がある場合に手術適応となる。手術目標は正面視で物が1つに見えることであって、眼球運動を正常にすることではない。しかし、斜視手術によって、日常生活に支障のない範囲にまで回復できることがほとんどである。術後炎症によって、眼球運動障害が再び悪化する可能性があるが、その場合には再手術を行う。本手術には定量の誤差がつきものであるため、再手術も含めて手術計画を立てておく。

眼瞼症状には上下眼瞼後退、内反症、脂肪の増加などが含まれる。上下眼瞼後退、内反症は眼瞼を「伸ばす」治療が必要であるが、上眼瞼ではしなやかさが要求されるため「切腱術」が、下眼瞼では支持力が求められるため耳介軟骨移植等の硬組織の挿入が行われる。


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