第7回岩手甲状腺眼症研究会抄録

【 更新日:2016/10/19 】

 

Ⅰ.難治症例についての検討(1)

1.大量静脈注射ガンマグロブリン療法(IVIG)が奏効した 甲状腺眼症合併重症筋無力症の一例

岩手医科大学付属病院神経内科・老年科 

伊藤 浩平、紺野 加奈子、水野 昌宣、寺山 靖夫

症例は64歳女性。平成22年9月より左眼瞼下垂と複視を自覚、翌月には両下肢脱力感が出現。入院時、甲状腺腫大、両眼瞼下垂、左眼の眼球運動障害、四肢の筋疲労症状を認めた。精査の結果、抗AchR抗体陽性の全身型重症筋無力症と診断。胸腺腫、バセドウ病の合併を認め、MRIでは軽度の眼球突出を認めた。バセドウ病に対し内服加療を開始し甲状腺機能は正常化した。重症筋無力症に対し副腎皮質ステロイド内服と大量静注免疫グロブリン療法(IVIG)、胸腺摘除術を施行。眼症状は一時消失したが、約2か月後に複視と眼球運動障害出現し、重症筋無力症の再燃、甲状腺眼症増悪と診断した。治療中、症状の改善はみられなかった。治療抵抗性の重症筋無力症に対し平成24年2月より定期的なステロイドパルス療法とIVIGを開始したところ、重症筋無力症の病態が安定したのみならず眼球突出にも著明な改善を認めた。甲状腺眼症に対し定期的なIVIGが有効である可能性が示唆された。

Ⅰ.難治症例についての検討(2)

2.重症甲状腺眼症の治療方針について

小笠原眼科クリニック院長 小笠原 孝祐

一眼科開業医における甲状腺眼症治療は、外眼部、眼瞼、斜視手術までが限界であると考えられ、ステロイドパルス治療、球後放射線治療、眼窩減圧術は専門の医療機関に治療を委ねるとともに、内科医、放射線科医、外科医との連携が重要であると思われる。

平成20年1月~平成28年6月末までに当院を受診した甲状腺眼症の患者さんは540名であったが、そのうち重症例の患者さんについてはステロイドパルス治療(36名)と球後放射線治療(7名)は岩手県立中央病院に依頼し、眼窩減圧術(7名)は愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科柿崎裕彦教授にお願いした。当院で経験した重症甲状腺眼症の実例を紹介させて頂くとともに、下記の点を中心に座長である柿崎裕彦教授から御教示を頂く予定である。甲状腺眼症の具体的な治療に関し、皆様方のお役に立てば幸いである。

1.      ステロイドパルス療法と放射線治療の原則的な考え方について。すなわち、ステロイドパルス治療と放射線治療を併施するか、単独で行うのか、あるいは、ステロイドパルス療法が効かない症例に対し、放射線治療を実施するのかについて。

2.      眼窩減圧術を施行した後も眼症の軽減が得られなかったり、複視が残存した症例への対応について。

3.      放射性ヨード療法後に眼症が悪化した症例とヨード療法症例とそうではない症例の間では眼窩減圧術の結果に差があるかどうか。

 

特別講演

甲状腺眼症update

久留米大学医学部附属医療センター病院長・内分泌代謝内科教授

廣松 雄治 先生

甲状腺眼症はバセドウ病やまれに橋本病に合併する眼窩組織(眼瞼、涙腺、外眼筋や脂肪組織など)の自己免疫性炎症性疾患である。その結果、多彩な症状を呈し、重症例では複視や視力低下をきたして、quality of life (QOL)が著しく損なわれる。後眼窩組織におけるTSH受容体の発現とTSH受容体を自己抗原とする自己免疫機序、後眼窩組織へのリンパ球浸潤とサイトカインの産生、線維芽細胞の活性化と増殖、脂肪組織の増生、外眼筋の腫大や線維化など、眼症の病態や遺伝因子や環境因子などの眼症の病勢への関与も明らかになってきている。眼症のモデル動物の報告も散見されつつある。

2008年European group on Graves’ orbitopathy (EUGOGO)を中心に眼症の診療ガイドラインが報告され、わが国でも2011年、日本甲状腺学会、日本内分泌学会、厚労省研究班より「バセドウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針」が公表され、眼症の定義、重症度、活動性の判定基準、専門医への紹介の基準が示された。わが国の指針では、MRIによる眼症の病勢(重症度と活動性)の詳細な把握と病態に応じた適切な治療法の選択を推奨している。最重症例、中等症~重症例にはメチルプレドニゾロン・パルス療法を第1選択の治療法として推奨しているが、副作用の観点からパルス療法は入院加療を原則としている。軽症例では、欧米では経過観察が推奨されているが、わが国ではCAS、眼科診察所見に加えてMRIの施行を推奨している。その所見により、経過観察、トリアムシロノンの局所注射、ボツリヌス毒素の局所注射など、病態に応じた適切な治療法を行うように勧めている。

海外においてはrituximabやsmall molecule TSH receptor antagonistなどが眼症の新しい治療薬として議論されてきている。

本口演では、甲状腺眼症の病因、病態、診断と治療の最近の進歩について概説するとともに、眼症診療の現状での問題点について議論する。

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