第10回記念市民公開講座講演抄録

【 更新日:2018/07/23 】

間違いだらけの視力、メガネのこと

鈴木眼科吉小路院長 鈴木 武敏 先生

はじめに、一般の人が、視力とメガネについてどんな誤解をしているのかを挙げてみたい。

1)視力が良ければ目は健康
2)眼鏡屋は専門家が開いている
3)視力検査がメガネ合わせ
4)メガネの処方箋を持って行けば、どこの眼鏡屋に行っても同じ
5)子どもにメガネはかけさせない方が良い
6)老眼は老眼鏡をかけると進む  など

多くの人は、遠方が見えれば、かけているメガネは合っている、というように考えている。しかし、メガネ合わせとレンズの選択、さらにはフレームの選択と調整も、どんな生活をしているかに合わせて変えるもの。実は、メガネ合わせは、目の病気を含めた専門的な知識が不可欠な技術である。先進諸国のみならず、アジア諸国でも、メガネ合わせは、厳しい教育を受けた有資格者が行っている。

正しいメガネは、1)交通事故予防、2)転倒予防、3)認知症予防、4)近視進行予防、5)眼精疲労や頭痛、肩こりの予防、改善、6)子どもの視機能の発達、7)学習、運動能力の向上にもつながる、重要な医療補装具なのである。

もう一つ大切なことは、メガネ合わせが中途失明予防と深く関わっていることである。日本の失明原因は緑内障が1位で糖尿病網膜症が3位である。どちらも早期発見・早期治療で失明予防が可能な、そして末期になるまで視力が下がらない病気である。要するに、視力が良くても目は健康とは限らないのである。もし、メガネ作りの時に直接眼鏡店に行くのではなく、眼科医を受診する制度が日本で確立されていれば、これら疾患によるによる失明は大幅に下がるはずである。ついでながら、車の免許更新も眼科健診の形に変更することで、視力不良のままで運転する人が減り、交通事故予防と失明予防につながるはずである。

残念なことに、日本の眼鏡制度は非常に遅れている、としか言えない。眼科医と信頼できる眼鏡店との連携の構築が急がれる。

 

 

日本とアメリカの眼鏡制度の違い

東京眼鏡専門学校理事長 岡本 育三 先生

欧米先進国をはじめ、アジアの近隣諸国を含め、世界の45カ国で眼鏡技術者の国家(或いは公的)資格制度が存在する。日本には(公社)日本眼鏡技術者協会が主管する「認定眼鏡士制度」が存在するが、残念ながら民間資格であると同時にその存在が国民に十分に認知されていない為、認定眼鏡士の数は減少傾向にある。超高齢社会の日本に於いては、高齢者がいつまでも健康で、健全な視力の保全が出来る環境を整える事は必要不可欠であり、日本の眼鏡技術者の資格制度を再考する時期にあると考える。

アメリカには、1900年からスタートした眼鏡制度(オプトメトリー制度)があり、国民の視力の保全に多大な貢献をしている。一般的には、眼鏡士の教育は高校卒業後、3~4年の専門教育であるが、米国のオプトメトリー教育は高校卒業後8年間であり、各州で実施する試験に合格した者にはオプトメトリストの称号が授与される。国の広さ、眼科医一人当たりの人口等により、各国それぞれ適切な眼鏡制度があってしかるべきと考えるが、米国の制度は世界で最もレベルの高い眼鏡制度である。

日本の眼鏡制度は基本的には徒弟教育制度からスタートしているが、1968年に大阪と東京に眼鏡専門学校が創設され、2年制の専門教育が始まった。1900年には世界の眼鏡教育のレベルに合わせるために、カリキュラムの変更を行い、3年又は4年制の専門教育に変更された。現在、日本には5校の眼鏡専門学校があり、全日制、通信制を合わせると、既に約15,000名が卒業又は修了した。年齢、転廃業の問題があり、現在、積極的に活動している卒業生、修了生は約5,000人と考えられる。今後、眼鏡技術者が知識・技術の向上に意欲的に取り組める様、日本に合った資格制度を導入し、眼鏡技術者のレベルアップを図っていく必要があると考える。

小型端末による目の健康被害

国際医療福祉大学 保健医療学部 視機能療法学科教授 原 直人 先生

コンピュータネットワークを背景として小型化したスマートフォンやタブレット端末が急速に普及した。このため業務上のメール等を処理できるようになり日常生活・就労環境において利便性を向上させたものの、VDT(visual display terminals)作業時間は延長したことから健康への影響が懸念されている。また青少年のスマホ保有者も年々増加しており、女子高生の場合その使用時間は平均6時間/日とする報告がある。スマホの場合、約20㎝の至近距離で長時間・繰り返し操作・視聴するため近見反応が極めて酷使される時代となった。近見反応は、視覚環境に適応しやすい系であることから、スマホ内斜視やスマホ老眼のメカニズムの一つであろうと考えているが、現時点で詳細は不明である。さらにバーチャル・リアリティーを作り出すHMD(Head Mounted Display)が、教育、旅行、医療関係など様々な分野で活用され始めている。やはり仮想現実の中での映像酔いや両眼視機能への影響が危惧される。また2018年国際疾病分類に「ゲーム依存症」が認定され、スマホに依存している日本人のネット嗜癖に関しても早急に考えていかねばならない。このように現時点で人類史上のデジタル大革命が起きている。

本講演では、はじめにデジタル機器が影響を与えたと考えられる自験例および両眼視機能と疲労に関する研究を提示する。次いで屈折矯正の適正化、デスプレイ・照明の調光やグレアの回避を行い、またVDT作業ガイドラインに則り休憩をしっかりと取ることで眼精疲労が予防できること述べる。

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