第3回眼鏡について考える会特別講演抄録
-眼鏡レンズによるランダム化比較対照試験-
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学・講師
長谷部 聡 先生
EBM(evidence-based medicine、科学的根拠に基づく医療)の概念は現在、全ての医療分野において標準的フィロソフィーとして認識されている。一方、科学的根拠にはレベルがあり、最高レベルの根拠として、1)メタアナリシス、2)ランダム化比較対照試験、3)コホート研究が挙げられる。小児の近視進行予防については150年以上前から数多くの方法論が試みられているが、EBMの評価に耐えうる研究は今世紀に入るまでほとんど皆無であった。
演者らは、眼鏡レンズを用いた近視進行予防のランダム化比較対照試験(近視トライアル)を(実施中のものを含めて)3度実施した。治療機転はいずれも、Earl Smithが動物モデルにより発見した眼軸長の視覚制御機能―すなわち網膜後方へのデフォーカスが眼軸長の伸展を促し、近視を進行させるとする仮説に基づくものである。
近視トライアルPart 1(2002~2006年)では、近業時の調節ラグを軽減する累進屈折力レンズが、Part 2(2008~2011年)では、調節ラグとともに周辺部網膜のデフォーカスを軽減する周辺部をプラス側に非球面化した累進屈折力レンズ(positively aspherized progressive addition lens)が、Part 3(2011年~)では、周辺部網膜のデフォーカスを軽減する回転対称特殊非球面レンズ(rotationary gradient refractive design lens、MyoVisionTM)が使用された。それぞれのレンズを装用することにで期待される光学的作用と現在までに明らかになった治療効果を報告する。
眼鏡レンズによる1.5~2年間の近視進行抑制効果は、等価球面値で平均0.17~0.27 D(抑制率:15~20%)であり、統計学的には有意であったが、臨床的治療としては未だ十分な効果とはいえない。海外の報告とあわせて、最新の臨床研究の結果を基に、これからの近視眼鏡処方のあり方についてディスカッションできれば幸いである。
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