幼稚園・保育園眼科健診の実施率向上

【 更新日:2013/03/27 】

視力検査を含めた幼稚園・保育園眼科健診の実施率向上に期待

平成20年11月に日本眼科医会が行った幼稚園ならびに就学時の健康診断(健診)における視力検査の実施率が低いという調査データを基に、文部科学省(文科省)スポーツ・青少年局学校健康教育課長に要望書が提出されたことを受け、幼稚園ならびに就学時の健診に際し、視力検査の実施を促す「通知文書」が全国の関係各部署に送付されたことは画期的なことだと思います。
 さて、私が居住する盛岡市は人口30万人の中核都市であり、総数56ヵ所の保育園の眼科嘱託医を28名の眼科医で分担し担当しています。それに対し、盛岡市内にある32の幼稚園のうち眼科嘱託医がいる施設は9園だけであり、充足率が低い理由を考察するところから幼稚園健診についての取り組みを行わなければならない現状を改めて認識しています。
 幼稚園の眼科健診については、学校保健安全法ならびに同法施行規則に基づき、視力検査を含めた内容で実施されることが定められておりますが、それらの健診実施義務に違反した場合でも罰則の定めは存在せず、履行を促す程度に留まっております。文科省においてもそれ以上の対応を取ることはないようです。小児科医は全ての幼稚園で健診にあたっているのに、なぜ眼科医、耳鼻科医の嘱託医数が少ないかという大きな理由として、嘱託医の報酬支出の問題があるようです。保育園においては、市町村からの補助金が厚生労働省(厚労省)を通じて配分されている一方、私立幼稚園においては文科省レベルでその予算が計上されていないからです。また、幼稚園の管轄部署が国立、私立、市立によって異なり、岩手県内の私立幼稚園は教育委員会ではなく、県の総務部法務学事課(私学振興担当)が所轄しているという行政の複雑さにも一因がありそうです。
 保育園は文科省ではなく厚労省の管轄下にあるため保育園における健診は児童福祉法45条の規定に基づき定められた児童福祉施設最低基準の中で学校保健安全法の規定に準じた健診を行うことを義務付けていること(同基準12条に法的根拠を求めることができます)、さらに、児童福祉法は児童福祉施設の運営が上記最低基準に達しない場合で一定の要件を満たす場合に、都道府県知事はその業務の停止を命ずることができる等、健診が実施されない場合のペナルティも定めています(児童福祉法46条)。このことを前提にしますと幼稚園健診に比べ保育園健診の縛りが厳しいと言えます。
 さて、眼科医の地域的偏在は地方でも問題となっています。眼科医不足の傾向が強まっている現在、幼稚園・保育園健診に視力検査を導入し健診の質を高めるためには、視能訓練士の協力が不可欠と考えられます。盛岡市においては平成15年度から視能訓練士会の協力を得て、原則として嘱託医所属の視能訓練士が事前にランドルト環視力検査の方法(A,B,C,D評価)を担当施設の保育士に指導し、健診時に再度嘱託医が確認し、事後の精密検査を父母に勧めることができる様になりました。今後、幼稚園、保育園の保健行政が一元化され、幼稚園・保育園の眼科健診において視力検査の実施率が少しずつでも向上することを強く願うものです。

平成22年11月発行 第81巻第11号 日本の眼科

小笠原 孝祐

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