平成23年6月号(No.91) 東日本大震災について
3月11日に発生した東日本大震災にてお亡くなりになられた皆様のご冥福をお祈り申し上げます。また、被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。
この度の大震災は未曽有の大災害であり、その復興には長期間を要すると思います。現在、多方面にわたる支援活動が被災地にて行われておりますが、岩手県眼科医会でも迅速に災害対策本部を立ち上げ岩手医大眼科医局との連携の下、眼科医療活動を行っていることに対し敬意を表するところです。現在はアメリカのフロリダ州にあるBascom palmer eye研究所が保有するVision Van(ビジョンバン)という眼科診療用バスが岩手県と宮城県の被災地を巡回し眼科診療に当たっておりますが、それも6月で終了し、以後はJMAT岩手という岩手県医師会が中心となる医療団が被災地に設置される仮設診療所で被災者の皆さんの診療に当たることになっております。
この度の震災について個人的な思いを申し述べれば、3日間の停電の後にテレビで見た沿岸部の津波災害の状況は空前絶後のものであり、恐怖感を覚えるとともに世の無常を感じました。また、自分の価値観が覆る程世の中の全ての事象がとても小さいものに見え、脱力感に苛まれた気がしております。しかしながら、診療を開始した以降、被災地の方々が医院にみられ診察をする過程において逆に被災地の患者さん方から勇気と元気を頂いた感じがしております。ちなみに当院に来られた被災地の患者さんは5月末日までに100名に達しています。支援やボランティアには色々な形があると思いますが、このような状況に直面すると、何かしなければならないという焦りにも似た気持ちが湧いてくるのは当然だと思います。しかしながら、「出来る人が出来る範囲内で出来ることをする」ということが原則であろうかと思いますし、「物的な義援金、支援金や直接的な支援を行うことが出来なくても被災地の方々を想うことだけでも立派なボランディア活動になる」というDMAT(Disaster medical assistance team)の統括者のお話を聞き、私もその通りだと感じています。
以下にこの度の震災に関連した三つの事柄について紹介させて頂きたいと思います。
① 松田メガネ社長 松田陽二氏によるメガネボランティア活動
松田陽二氏はネパールの農村部で13年間にわたりメガネボランティア活動を行っており、その功績が認められ、昨年度の岩手日報文化賞(社会部門)を受賞しております。この度の震災では3月18日から被災地である陸前高田、大船渡、大槌、山田地区を中心にメガネの無償提供を行うとともにコンタクトレンズのケース、洗浄保存液の提供も行っております。被災した方々は着のみ着のまま逃げられていたためメガネが無く、回覧や新聞などが読めず苦労していた方々にとっては本当に朗報だったと思います。また、水道が復旧していない地域が多かったため使い捨てのコンタクトレンズを入れっぱなしにしていた方が居たのも事実のようです。避難所では雑魚寝状態が続いていたため、メガネケースがなければメガネが踏まれてしまうことが多くメガネケースの提供も大変役立ったと聞いております。5月までの間になんと2,600本のメガネを無償提供したとのことで、その活動には心から敬意を表するとともに頭が下がる思いです。
② 当院での経験
当院ではこの度の大震災による被害はありませんでしたが、ガソリン不足や物資の供給の遮断により約2週間にわたり萎縮診療を余儀なくされました。4月5日から入院患者さんの受け入れが可能となったのですが、その2日後の4月7日に震度5強の強い余震があり停電となりました。その日は宮古からの患者さんが2名入院しておりました。翌朝は電気が使えないためガスでご飯を炊き朝食を出したのですが、避難所から来ていた宮古の患者さんから「こんな朝食は久しぶりです」と言って大変喜ばれました。ちなみにその日のメニューはご飯とみそ汁、もやしサラダ、玉子豆腐、塩鮭と漬物でした。
入院患者さんを置く有床診療所を維持していくことは決して容易なことではありませんが、今回の体験を通し今後とも頑張って入院患者さんの受け入れを継続していきたいとの思いを強くしました。ちなみに日帰りで手術を施行した患者さんの一人は交通機関が麻痺していたため、片眼眼帯で車を運転して医院に来られたのにはびっくりしてしまいました。何の事故もなかったことに安堵しました。また、マンションは耐震構造がしっかりしていますが、停電した際にはエレベーターだけではなく水や空調などのライフラインの全てが止まってしまいますので、ある意味では災害に弱いかもしれません。
③ 見えるということの大切さ
今回昼間の地震でしたが、夜間ではさらに色々な面で危険が高まると思います。避難所にいる方々がどのような生活をされているかというと朝食の後、皆さん避難所を出てご家族や知人の方を探しに行くようです。ですから見えないと本当に困るわけです。また、救援活動をされる消防士さんは活動する時にはほこりが強いためゴーグルとマスクを着けます。メガネの方はゴーグルが出来ないとかメガネが曇ってしまうとかコンタクトレンズの方は目にゴミが入った時に困ります。アメリカ軍ではレーシックを国費で受けることができます。日本の自衛隊員や消防署員もレーシックを公費で受けられるようになればと願っています。
当院でレーシックを受けた消防士さん(大船渡市)からの寄稿文
消防という仕事をしている私の身近にはコンタクトレンズの使用で困っている人がいました。水が出ないためにコンタクトレンズケースを洗浄できない。お店が閉まっているため洗浄液が無い。コンタクトレンズが流されて取り替えるレンズが無い。24時間あるいは2、3日つけたまま活動している署員もおり、少しの時間を見つけ目薬を点眼していました。また、塵が舞っていてゴーグルを装着しなければならないのですが、メガネが邪魔で思うように活動できないというストレスもあったようです。このため、コンタクトレンズをずっとつけていて、目のため衛生上は良くないと知っていても活動のため仕方がなかったと思います。その点、私は視力矯正手術をしたことにより何もストレスを感じることなく活動できました。レーシック等の屈折矯正手術は、消防士採用試験の規定視力をクリアーするためだけでなく、今後の救助活動に本当の必要性があるのだと思います。