平成9年6月号(№34) 近視の成因について
本号では近視にはどのような要因が関与しているのかについて概略を解説したいと思います。ただしここでは遺伝的要素が強く、生まれつき非常に強い近視で眼鏡、コンタクトレンズをしても視力が出ない変性近視(悪性近視とも言う)は除いた一般の近視について述べたいと思います。
(1)素質・遺伝・人種差
どうして両親は二人とも視力が良いのにこの子は近視になったのでしょうか』という質問をよくうけます。現代社会における後天的要素が関与していると考えられますが、最近の統計では両親に屈折異常がなくとも10%の子供は近視になるといわれています。また両親が近視の場合には60%以上の確率で子供さんは近視になるといわれ、このように素質が重要な近視となる要因と考えらます。また、人種差は非常に大きく、日本人では近視が多いのに対し、アメリカ人では逆に30%位の人が遠視です。従って後天的な要素をいくら除く努力をしてもあまり意味がないという説を唱える学者がいるのも事実です。
(2)後天的な要因
人間の生下時の眼の大きさ(正確には眼軸長といいます)は約17mmですが、成人になるまで6~7mm眼の奥行きが長くなります。人間の屈折(近視、遠視など)を決める要因は成長過程においては3つ考えられます。①眼の大きさ(眼軸長)、②レンズ(水晶体)の屈折、③黒目(角膜)の屈折です。非常に強い近視になるほとんどは成長過程で眼軸長が必要以上に長くなり、ピントが網膜の前で結んでしまう軸性近視といわれるものですが、近年問題となっている近視児童の増加(1994年の文部省の統計では小学生25%、中学生49%、高校生62%)には眼の大きさの変化だけではない後天的原因があることは事実と考えられます。いわゆる学校近視といわれる所以です。
人間は外界からの光を角膜、水晶体で屈折させ網膜に像を結ぶよう自動制御(オートフォーカス)しています。従って遠くから近く、近くから遠くへ視線をずらしてもうまくピントを合わせることが出し切るわけです。このピント合わせには角膜が2/3、水晶体が1/3関与していますが、角膜の大きさ、カーブ(曲率)6歳でほぼ完成するといわれていますので後天的要因として最も重要なものは水晶体(レンズ)の変化ということになります。近くを見る時は水晶体が厚くなりピントを合わせますが、この状態が戻らなくなる状態になることが近視の原因と考えて頂ければ良いと思います。従って、必要以上に眼を近づけてものを見たり、視標の小さなゲームに夢中になることは避ける必要があります。また、視力検査の時には必ず水晶体の緊張をとった状態で測定をすること、そしてもし眼鏡を処方される時は強過ぎない度数であることを検査によって確認し、適切なかけ方の指導を受けることです。
最後に強調したいことは、学校健診の視力検査でB判定(0.7以下)という通知書を渡された場合は自覚的に不自由がなくても精密検査を受けることです。治療により進行を止められる可能性があるのはこの時期までと考えられ、C以下は不可逆的な近視であることがほとんどだからです。