色覚マニュアル ー色覚を正しく理解するためにー
Ⅰ.色覚検診について
平成14年度までは小学校4年生の児童に対する色覚検診が義務付けられておりましたが、平成14年3月29日付「学校保健法施行細則の一部を改正する省令」により「健康診断の必須項目から色覚検診を削除」することになりました。これに伴い、学校検診における色覚検診については原則的に希望者のみ受ければよいことになりました。しかしながら、児童、生徒が自身の色覚の特性を知らないまま卒業を迎え、就職にあたって初めて色覚による就業規制に直面するという実際の報告や、保護者などに対して色覚異常および色覚の検査に関する基本的事項についての周知が十分に行われていなかったのではないかという指摘がなされました。このため、平成26年4月30日学校保健法施行規則の一部改正に伴う局長通知が全国都道府県や指定都市の教育委員会宛に出され、健康診断の実施に関わる留意事項として色覚検診に関する指導強化の内容が示されました。このことは、色覚検診が必須項目に再び加えられたということではありませんが、児童、生徒が色覚検診を受けないために不利益を受けることが無いように努めることが明記されたものです。これにより各地域の教育委員会は新たな対応を求められることになりました。文部科学省がこのように色覚検診に関する新たな指導強化の通知を出したのは、この10年余り多くの学校で色覚検診がなされなくなったことで、学校生活や進学、就職に関わる様々なトラブルが多くみられるようになったからです。
Ⅱ.先天色覚異常の種類は?
先天性色覚異常は、次の3つに大別されています。
1.先天赤緑異常
2.先天青黄異常
3.全色盲
これらのうち全色盲は、眼底に著変がみられず、高度の視力障害(通常は、視力0.1以下)、眼振、昼盲を伴うタイプです。この中で、視力がやや良好(視力0.1~0.3)で、色覚が多少残存しているタイプが全色弱とも呼ばれていますが、いずれも非常に稀です。先天青黄異常はさらに稀なことから、一般には先天色覚異常というと先天赤緑異常を指します。先天赤緑異常には、つぎのような種類があります。
1.第1異常
(1)第1色弱
(2)第1色盲
2.第2異常
(1)第2色弱
(2)第2色盲
このように、先天赤緑異常は、第1異常と第2異常とに分類され、それぞれ「いわゆる色弱」と「いわゆる色盲」に細分されています。
ここで注意すべきことは、「色盲」という用語です。一般に「色覚異常」イコール「色盲」と表現されていることがあります。しかし、「色盲」という用語が用いられているのは、「第1色盲」、「第2色盲」のように、「第1」、「第2」などが付されている場合のみです。また、「色覚異常」の「異常」という用語も見直すべきとする意見があり、平成18年度より下記のごとく改訂されました。
Ⅲ.色覚用語が改訂されました
色覚異常という表現は問題があるとの認識から、平成18年度より色覚用語が改訂されました。用語の旧新対照表は以下の通りです。
総 称
旧 | 新 |
全色盲色盲色弱(異常3色型色覚)第1 / 第2 / 第3 色覚異常(赤) (緑) (青) | 1色覚2色覚異常3色覚1型 / 2型 / 3型 色覚異常(赤) (緑) (青) |
診断名
旧 | 新 |
第1色盲第2色盲第1色弱第2色弱 | 1型2色覚2型2色覚1型3色覚2型3色覚 |
Ⅳ.先天赤緑異常の発生頻度は?
頻度は男性の5%、女性の0.2%
先天赤緑異常の頻度は、日本人男性の約5%、女性の約0.2%です。つまり、男性では20人に1人、女性では500人に1人ということになります。保因者(女性)の頻度は約10%ですから、10人に1人です。
第1異常と第2異常の比は1:3.0~3.5で、第2異常が多くなっています。
Ⅴ.先天赤緑異常の病因は?
先天赤緑異常は、網膜の錐体(細胞)に含まれる光受容蛋白質である視物質の異常です。錐体には赤、緑、青領域の光にそれぞれ感度の高い視物質をもつ3種類が存在し、それぞれ赤、緑、青錐体と呼称されています。
第1異常は赤視物質、第2異常は緑視物質の異常
先天赤緑異常のうち、「第1異常」は赤錐体視物質(以下、赤視物質)の異常であり、「第2異常」は緑錐体物質(以下、緑視物質)の異常です。
いわゆる色盲は1種類の錐体視物質の欠如
「いわゆる色盲」は、3種類の錐体視物質のうち、1種類の錐体視物質が欠損し、網膜に2種類の錐体視物質しか発現しないタイプです。つまり、「第1色盲」では、赤視物質が欠如して青視物質と緑視物質のみが網膜に発現し、「第2色盲」では、緑視物質が欠如して青視物質と赤視物質のみが網膜に発現するタイプです。
いわゆる色弱は1種類の錐体視物質の異常
「いわゆる色弱」は、3種類の錐体視物質が発現しますが、1種類が正常と異なったタイプです。このうち、第1色弱(赤視物質の異常)は、赤視物質が緑視物質に類似の視物質に変化したタイプです。
Ⅵ.学校生活に見られる問題
未就学児や小学1~2年ではまだ周りへの関心は薄く、何事にも感じたままを表現する傾向があります。またこの年代の教材は色を多用するものが多く、絵を描く機会も少なくありません。周りの者は、強度の色覚異常の子どもが描くぬり絵の色づかいが間違っていることに気づくことはあっても、それを色覚異常のせいだとは思わず、集中していない、ふざけている等と誤解し、「ふざけては駄目、もっとしっかり見て描きなさい!」と叱咤し、当の本人は戸惑うばかりといったケースが珍しくありません。これが小学校も高学年になってくると周囲と自分を比べるようになり、また色間違いをして友達にからかわれるなどの経験をしながら自らの色の特性を知るようになってきます。
先の調査で得られた事例を以下に紹介します。
- 保育園の頃からクレヨンの赤・緑。茶の区別があいまいだった(5歳男)
- ゲーム機の充電の色(橙と黄緑)が区別できなかった(5歳男)
- 秋の葉の色という課題で緑色に塗った(7歳男)
- 理科のプリントで草や花の色をうまく塗れない(8歳男)
- 学校で色間違いをして先生に「ふざけてはダメ」といわれた(8歳男)
- 色使いが級友と違うことをからかわれた(10歳男)
- 美術部に所属しているが赤と紫の色を間違えて先生に指摘された(14歳女)
Ⅶ.進学・就職に見られる問題
このように、小学校高学年頃から経験を踏まえながら自分の色覚特性を知り、少しづつ周りの状況に合わせることができるようになってきます。しかし先にも述べたようにこの10年余りの間、多くの学校で検査が行われなかったために、先天色覚異常の約半数は中高生になっても自らの色の特性に気づいてないことが分かりました。そのため進学・就職において様々なトラブルが起こりました。以下は事例の一部です。
- 工業高校入学後の健診で異常を指摘され、職業選択に不安を抱いた(15歳男)
- 消防の仕事を希望、願書に色覚があり検査を受けて異常を指摘された(18歳男)
- 警察官志望だったが色覚異常とわかり断念した(18歳女)
- 就職試験(自動車整備業)で初めて色覚異常を指摘されて驚いている(18歳男)
- 航空大学受験希望、本人は自覚症状なし。(22歳男)
このように進学・就職におけるトラブルは一生にかかわる問題だけに深刻なものばかりです。進路指導にあたる教職員は色覚制限のある職業や資格(航空、船舶、自衛隊、警察、消防、鉄道、バス関連など)や特別な学校(航空、船舶、鉄道、防衛、警察関連など)の他、色覚異常が不利になる職業・作業(調理師、美容師、看護師、介護士、カメラマン、ファッション関連など)を周知しておくことが求められます。
Ⅷ.資格試験について
(1)航空
第1種定期運送用操縦士事業用操縦士1等航空士航空機関士 | 色覚が正常であること |
第2種自家用操縦士2等航空士航空通信士 | 色覚が正常であること |
(2) 船 舶
海技士(航海)
色盲又は強度の色弱でないこと。
小型船舶操縦士 欠格事由の緩和(平成11年2月)
船舶職員法の一部改正及び船舶職員法施行規則の一部改正従来結核事由とされていた強度の色覚異常者のうち、航路標識の彩色等を識別できる者については、航行時間を限定した上で、新に免許を付与することとした。
(3)自衛官募集要項
航空学生 | 視力:遠距離視力裸眼で両眼とも0.6以上矯正視力が1.0以上、近距離視力裸眼で両眼とも1.0以上、近視矯正手術(オルソケラトロジーを含む)を受けていないこと視器:斜位、眼球運動、視野、調節力、夜間視力、色覚等に異常のないもの |
一般幹部候補生(海上・航空飛行要員) | 正常なもの |
一般幹部候補生(一般・音楽要員)海上技術幹部候補生歯科・薬剤科幹部候補生一般自衛官・予備自衛官補
防衛大・防衛医大学生 自衛隊生徒 |
色盲または強度の色弱でないもの |
(4)国家公務員採用試験(人事院広報室1999年4月)
採用試験 | 色覚検査で不合格となる場合 |
労働基準監督官 | 全色盲である者 |
法務教官刑務官気象大学校 | 色覚に異常がある者(職務に支障のない程度の色弱は 差し支えない) |
皇居護衛官入国警備官航空管制官航空保安大学校海上保安大学校
海上保安学校 |
色覚に異常のある者 |